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ニッポンを知る旅・北陸能登編〜輪島塗を知る〜

輪島塗を見に行く

漆の語源は「麗(うるわ)し」とも「潤(うる)む」とも。その光を内に湛えた奥ゆかしい光沢やしっとりと柔らかな艶は、縄文時代から珍重されてきたという。

全国に点在する漆器のなかでも、その代表格とされる輪島塗のふるさと、石川県輪島市へ足を運んだ。能登半島の突端に位置する輪島の町並みは簡素で美しい。渋い銀鼠色の板壁と艶やかな黒瓦のコントラストに心惹かれる。

この風土が育んできた輪島塗の魅力を探るべく、早速「輪島塗会館」へ向かった。

輪島塗の特徴と制作工程

「輪島塗の特徴は『地の粉(じのこ)』と呼ばれる地元の珪藻土を使うこと。この珪藻土を焼いた粉を漆に混ぜて複数回塗り重ねていくという手法が、輪島塗の頑丈さの要になります」と説明してくれたのは輪島塗会館事務局長の隅(すみ)さん。

二階の輪島塗資料展示室では、輪島塗の歴史民俗資料約4,000点を保有するほか「輪島塗のお椀ができるまで」を視覚的にわかりやすく紹介している。

「生漆(きうるし)を全体に染み込ませて木を固める『木地固め』、壊れやすい部分に布を当て、漆で貼り付ける『布着せ』、その上から『一辺地・二辺地・三辺地』と徐々に細かい地の粉を混ぜた漆を塗り重ねます。この間も塗っては研ぎ、塗っては研ぎを繰り返すことで、強く滑らかな肌を整えていくわけです。こうして下地が終わったところで、さらに中塗、上塗を施します。ここまでが基本的な塗りの工程で、その上から『沈金(ちんきん)』『蒔絵(まきえ)』や『呂色(ろいろ)』の変わり塗というように加飾の工程が続く。これが輪島塗ということになりますね。これらの手数を数えていくと、124工程にもなるといわれます」

気の遠くなるような工程に驚いていると、隅さんはさらに言葉を重ねた。

「この丁寧な仕事に加えて、輪島では分業が発達しており、最低でも6~7人の職人さんの手を経て一つのものができあがります。その一人一人が、いいものを作ろう、次の職人さんが仕事をしやすいように、きれいに早く、という気持ちで、渾身の仕事をして次に渡す。高度に熟練した手業のリレー、その積み重ねが素晴らしい工芸品を完成させるのです」

輪島塗が全国に広まったわけ

輪島が産地としてここまで大きくなった理由の一つは海運に恵まれたことが挙げられる。かつて「親の湊」と呼ばれた良港から、北前船を利用して全国へたくさんの漆器を運ぶことができたのだ。

さらに、曹洞宗の『大本山総持寺祖院(注)』(輪島市門前町)の存在も大きい。全国から修行に来た人たちが輪島塗を持ち帰って広めたことも輪島塗が栄えた要因の一つに数えられる。

大本山総持寺祖院

折々の花や樹木に彩られた広大な庭を囲むように配された壮麗な伽藍(がらん)の多くは国の登録有形文化財に指定されている。2021年に開創700年を迎えた、約2万坪の境内に佇めば、厳かな気持ちが湧いてくる。

(注)大本山総持寺祖院:1321(元亨元)年、瑩山紹瑾禅師によって開創。その後、全国に末寺16,000余を数えるに至るが、1898(明治31)の大火で境内は焼失。本山を1910(明治43)年に神奈川県横浜市鶴見に移し、祖院となる。

輪島の人は輪島塗を使ってる?

「う~ん、そうですねぇ」と少し考えてから隅さんは答えてくれた。

「産地とはいえ、やはり輪島塗はハレの日の器。冠婚葬祭など限られたシーンで使うことの方が多かったかもしれません。ただ、昔から輪島では『家具膳』といわれる御膳とお椀の一揃い5客分を一箱に納めたものが4セット、合計20客ぶんが備えられてきました。それから、家々の廊下や柱にも漆が施されていたものです。汚れを防ぎ、木材が長持ちするんです」

家具膳

輪島の夏の風物詩「輪島大祭」を彩る『キリコ』と呼ばれる巨大な御神燈、切子灯籠にも輪島塗が見られる。

また、日本三大朝市に数えられる輪島朝市でも魚介類や野菜とともに漆器が並び、市内の全小中学校では給食に輪島塗のお椀とお箸を使っているという。

「やはり、輪島塗は輪島の人々の暮らしに欠かせない存在なんですよね」と隅さんは微笑む。

輪島キリコ会館

輪島塗のこれから

輪島塗は、全国の漆器産地のなかでただ一つ、重要無形文化財の指定を受けており、人口わずか3万人足らずの市内に、実に三人もの人間国宝がいる。その中のひとりは輪島漆芸技術研究所の所長を務め、他の二人も講師として後進の育成に励んでいる。

毎年開催される日展や日本伝統工芸展の漆芸部門入選者の1/4は輪島の作家が占めているとか。

最近ではアクセサリーに輪島塗の技法を応用するなど、新しい取り組みに挑戦する作家も少なくない。

「塗り物特有の艶や温かみ、持ったときの手の感触、口当たりの優しさ。そして、目で見てもおいしい、その美しさ。輪島塗は堅牢で、大事に使えば長持ちします。もし傷んできたら塗り直しをすることで新品同様に生まれ変わり、そこからまた10年、20年と使い続けることができる。そんなところが輪島塗の魅力ではないでしょうか」と隅さんは語る。

2021年より11月10日は「漆塗りのお椀でご飯をいただく記念日」(日本漆器協同組合連合会)に制定される。炊きたてのご飯のあったかさを手のひらに感じながらいただく味は、きっと格別に違いない。

輪島塗会館の一階には、市内60店以上の漆器専門店が共同出店している。

旅の思い出に、とっておきをひとつ。

使い込むほどに艶を増す、輪島塗を大切に育てていきたいものである。

輪島塗会館
  • 施設名:輪島漆器商工業協同組合・輪島塗会館
  • 住所:石川県輪島市河井町24-55
  • 開館時間:8:30~17:00
  • 年中無休
  • 二階資料展示室入館料:大人300円、高校生200円、中学生100円、小学生無料
  • 問い合わせ:0768-22-2155
  • URL:http://www.wajimanuri.or.jp/

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