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民俗学は無限大!第4章 奈良県 「仏像に会いに」

イケメン仏像に会うべくいざ、奈良へ

四十ウン歳の冬、生まれて初めて一目惚れをした。

お相手は、奈良におわす仏様である。詳しくは後ほどたっぷり説明したいと思うが、とにかくひと目見てビビッと衝撃が走った。惚れ惚れして立ちすくんだ。そして思わず口から漏れ出た。

「はぁ、かこいい♡」

そんなワケで今回は、奈良の旅で出会ったイケメン仏像たちをご紹介したいと思う。仏様をなんと心得る!とお叱りを受けそうだが、入口はなんであれ、仏像の世界に興味をもつのは悪いことではない。その土地に根付く文化を通して旅が楽しくなるのであれば、イケメン仏像めぐりも立派な民俗学である、と思う。

知ればオモシロイ!仏像のキホン

さて、イケメン仏像をご紹介する前に仏像の基礎知識を少し。

仏像は大きく4種類にわけられ、ランク付けされている。最高位に君臨するのが「如来」で、既に悟りをひらいているお方。肩に衣をかけただけの質素なたたずまいが特徴だ。

次なる「菩薩」は如来になるべく修行中の身。すべての人々を救うことが任務で、そのための道具(持物)を手にしている。装飾品をたっぷりまとい、華やかでゴージャスである。

3番目は、怒り顔の「明王」。如来の教えに従わない者がいると力ずくで従わせる強硬派だ。

最後の「天部」は、他宗教の神々が仏になったため実に多種多様。ご存じ、七福神をはじめ、四天王や金剛力士、阿修羅で知られる八部衆などがそれにあたる。

仏像の種類だけでなく、手や指のポーズ(印相)や手にしているもの(持物)など、それぞれの意味を知ると仏像鑑賞がグッと楽しくなるのだが長くなるのでそれはまた別の機会に。

仏像界のアイドル、阿修羅様

イケメン仏像といえば、なんといっても奈良の興福寺の阿修羅であろう。

2009年に東京と福岡の国立博物館で行われた「国宝 阿修羅展」は165万人以上の入場者を集め、一大阿修羅ブームを巻き起こした仏像界のアイドルである。阿修羅展に行けなかった筆者は、阿修羅像を拝むことは今回の奈良旅のお楽しみの一つであった。

興福寺の国宝館でいよいよご対面である。

八部衆を展示した薄暗い部屋に入ると光を受けてふんわり浮かび上がる八部衆。その真ん中に鎮座するのが阿修羅様だ。八頭身でほっそりボディ、プロポーション抜群である。元々は戦いが好きなインドの悪神で、仏教に帰依して善の神になっていく様を表したとされる3つの顔を持っている。「美少年」と称されるのが、善の心を取り戻した正面の顔だ。

切れ長の目、すっと通った鼻筋、キリッと結んだ口——うむ、確かに美しいが、若いなぁ。

しかも筆者には悲しげな顔に見えて仕方ない。とはいえ、美仏が間近に拝め、筋肉隆々の金剛力士像、スーパーヒーロー大集結の十二神将像、高さ50mに及ぶ五重塔など、国宝・重文だらけの興福寺は見応え十分であった。

凛と美しい推し仏、文殊菩薩様

そろそろ筆者が恋に落ちた仏様をご紹介したい。

そのお方は、桜井市にある安倍文殊院の御本尊、文殊菩薩様。

「三人寄れば文殊の知恵」でおなじみの智慧を司る仏様。名前からわかるように、仏様ヒエラルキーでは2番目の「菩薩」である。

本堂に入り、その姿をみた瞬間、足がすくんだ。

文殊菩薩像では日本最大である高さ約7mという迫力もあるのだが、凛とした美しさに圧倒されてしまったのだ。特に目。切れ長の目は涼やかなのに眼力するどく、ミステリアスでもある。目を逸らすことができない。身じろぎもせず見つめていた。少し落ち着き全体をみる余裕がでると、大きな光背や体のラインにピッタリ沿った衣装、アクセサリーの繊細さ、豪華さもため息ものだ。右手に剣、左手に蓮の花を携え、大きな獅子にまたがり、4人の従者を従えている。

はぁ、かっこいい♡

鎌倉時代の天才仏師、快慶

安倍文殊院の文殊菩薩様を手がけたのは、鎌倉時代に活躍した仏師、快慶である。

兄弟弟子・運慶とともにつくった代表作、東大寺南大門の金剛力士像はあまりにも有名である。迫力ある仏像で知られる運慶に対して、快慶の仏像は優美で華やかだと言われるが、筆者は断然、快慶派だ。仏像図鑑を眺めていてドキッとするのは大抵、快慶作だ。その美しさに釘付けになる。

そんな筆者ゆえ、安倍文殊院は旅のハイライトであった。そしてついにお目にかかった、“生”の文殊菩薩様。想像していたより大きく、リアルで、艶めかしかった。眺めていると、信仰の薄い筆者でもなんだかありがたい気持ちになった。これが800年以上前につくられたものだと考えるとまた感慨深い。

令和の時代になってもなお人の心を動かす仏像を生みだした快慶はやはり天才である。

法隆寺で実感、ニッポン万歳!

ふんわりまとめた髪一本まで美しい円成寺の大日如来(運慶作)、新薬師寺の十二神将の中でも腕に龍をもつ姿がかっこいい珊底羅大将、凛とした空気感が心地いい室生寺の十二面観世音菩薩など、すべてのお寺で美仏に出会えた今回の旅。もう一つだけご紹介したいのが、聖徳太子が創建した法隆寺だ。

「うまし奈良めぐり実行員会」が主催するガイドツアーに参加したのだが、2時間驚きっぱなしだった。というか、このツアー、かなりおすすめである。お寺や神社ごとに内容や金額は違うのだが、法隆寺のように僧侶が案内してくれたり、特別拝観があったり、精進料理が味わえたりもする。

さて法隆寺の何に驚いたって、飛鳥時代という途方もなく昔の建築物や仏像がゴロゴロあること。そして日本人の細やかさたるや!例えば、穏やかな微笑みをたたえるスレンダーボティの百済観音立像。祈りを捧げる者からは見えないはずのサイドやバックスタイルまできっちり考えて彫られているのだ。

14、1500年前からディティールまでこだわる日本人!なんだか誇らしい気持ちになった。

興福寺:https://www.kohfukuji.com/

安倍文殊院:https://www.abemonjuin.or.jp/

法隆寺:http://www.horyuji.or.jp/

奈良うましめぐり:http://www.nara-umashi.com/

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