1. HOME
  2. Column
  3. 民俗学は無限大!第3章 番外編「おうちで藁納豆」
Column

民俗学は無限大!第3章 番外編「おうちで藁納豆」

発酵はたまらなくオモシロイ

その土地に根付く文化を通して旅へと誘う「民俗学は無限大」。しかしながら今回は趣向を変えて、自宅で楽しむ民俗学をお届けしたい。

テーマは「発酵」だ。

何を隠そう、いや、隠さない。筆者は発酵好きである。あるモノがまったく違うモノに変わる化学反応にたまらなく興味をそそられる。それが目にみえない世界で行われているとなると、さらなる興奮を覚えるのだ。加えて、数年前ブームになった甘酒で謳われていた通り、身体にいいとなると健康オタクの筆者には直球ド真ん中である。

というわけで今回は、日本に古くから根付く発酵文化とふれあいたいと思う。

発酵と腐食の違いはウマイかマズイか

まずは「発酵とはなんぞや?」を説明しておこう。

簡単に言うと、乳酸菌や麹菌、酵母といった微生物の働きによって食物がおいしく変化することである。カビの一種である麹菌が大豆に含まれるタンパク質に作用して味噌や醤油をつくったり、酵母が麦芽の糖を分解してビールになったり、はたまた乳酸菌が牛乳の乳糖を分解してヨーグルトになったり。酢や日本酒、鰹節、チーズ、パン、豆板醤などもそうで、身の回りには発酵食品であふれている。

そしてお気づきかと思うが、発酵は日本のみならず、世界中でみられる食文化である。「発酵って腐るのとは違うの?」と疑問に思う方がいらっしゃるかもしれない。発酵と腐食は基本的には同じである。ただ、人間にとって有益か否か、もっと簡単に言えば美味しいか否か、なのだ。

日本が誇るスーパーフード、納豆

数ある発酵食品の中から今回選んだのは「納豆」である。畑の肉こと、大豆を原料に納豆菌で発酵させてつくる納豆。健康を維持するために必要不可欠な5大栄養素をすべて含むうえ、食物繊維も豊富なニッポンのスーパーフードである。

しかしながらあの粘り、あのニオイ、いやはや誰が最初に食べようと思ったのか?気になって調べてみると、その起源には諸説あるようだ。愛馬のエサである煮豆が余り、もったいないと藁に包んだのがはじまりという聖徳太子説、平安時代、兵糧として煮豆を藁に包み、馬の鞍にくくりつけていたところ馬の体温で発酵したという源義家説、戦国大名・加藤清正が朝鮮出兵の際に煮豆を俵に入れ保存したところ偶然できたという熊本説まである。

いずれにせよ、その歴史は古い。「納豆」という言葉が初めて文献に登場したのは室町時代で、江戸時代には「納豆売り」なる商売があり、庶民の食べ物として定着していたという。

温度管理がキモの納豆づくり

話を本題に戻そう。納豆づくりである。もちろん、挑戦するのは昔ながらの藁納豆だ。作り方は驚くほど簡単。

①稲藁で「藁づと」を作り、煮沸殺菌する ②大豆を煮る ③藁づとの中に大豆を詰める ④約40℃で22~24時間発酵。これで完成である。

肝心要の納豆菌は?

心配ご無用。納豆菌は藁にすみついている。約40℃の環境になると活性化するのだ。つまり、藁納豆づくりのポイントは④。納豆菌が元気に活動できる40℃をいかに保てるか、である。いろいろ調べた結果、筆者はクーラーボックスと湯たんぽ(後にカイロを追加)を使うことにした。

時はきた。藁納豆づくり開始

時間をたっぷりそそげる週末、ネットで購入した稲藁も無事に届いた。いよいよ藁納豆づくりにとりかかる。稲藁が大量だったことにおののきながらも、藁を束ねて「藁づと」を作る。もちろん、初めてだが、この時代YouTubeを見ればだいたいのことは解決する。親切丁寧なチャンネルのおかげで無事に6つ作ることができた。

大きな鍋に湯を沸かして、煮沸殺菌する。納豆菌が死ぬのでは?との心配には及ばない。納豆菌は恐ろしく強い。100℃なんかで死にやしない。マイナス80℃の極寒でも生き続ける生命力である。煮沸殺菌するのは、藁の中の雑菌を死滅させるため。その藁づとの中に1時間ほど煮てやわらかくなった大豆を熱々のうちに詰める。温度を少しでもキープすべく、筆者はそれをビニール袋に入れた(口は開けたまま)。

温室育ちの我が藁納豆、出来はいかに?

さぁ、ここからが正念場である。クーラーボックスに湯たんぽを入れ、大豆を詰めた藁づとを並べて、上からバスタオルをかぶせた。

「どう?いい感じ?元気に発酵するんだよ」

と声をかけ、クーラーボックスを閉める。この声かけ、個人的には重要だと思っている。納豆菌も生き物。やさしくされる方がいいに決まっている。

あとは納豆菌がご機嫌に繁殖して、大豆が粘るまでただ待つのみだが、クーラーボックス内の温度チェックは欠かせない。8時間おきに湯たんぽの湯を入れ替え、40℃前後をキープさせる。あまり意味はないとは思うが、部屋のエアコンもつけっぱなしの過保護っぷりである。

お待ちかねの24時間後、ドキドキしながらチェックしてみる。あれ?粘ってない。カイロを購入しに急いでコンビニへ走る。「寒かったねー。これでどう?」と、クーラーボックスの四方にカイロを貼り、さらに12時間——。

つっ、ついに完成!我が藁納豆。

粘り十分、香りもいい。さっそく!といきたいところだが、1~2日間冷蔵庫で寝かせて発酵を落ち着かせる必要がある。

自家製藁納豆のうまさに唸る

マイ藁納豆、どうやって食べるか?

いや、納豆かけご飯一択でしょ。

ってことで、ご飯を炊き、きらめく銀しゃりの上にうやうやしく納豆をのせる。まずは納豆のみを一口。

おー!納豆特有の香りが鼻腔を抜け、大豆のこっくりとした旨みが口いっぱいに広がる。市販のパック納豆では感じられない大豆のふっくら感もいい。お次は白飯とともに。

ぬぉー!やはり最強!箸がとまらぬ!ツナ缶やアボカド、バターなど世の中には“ちょい足し”情報があふれているが、極上納豆には醤油さえ不要だ。納豆の旨みをストレートに味わうのが一番だ。

意外と簡単にできるうえに、想像をはるかに超えるうまさすっかりハマった藁納豆。次は大豆の種類を変えてつくってみようかと思案中。

あなたも一度トライしてみてはいかがだろうか?

民俗学は無限大!第4章 奈良県 「仏像に会いに」の記事へ