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Interview

シフトする人#2 株式会社ピッカンテ 取締役 永石守利武さん

国内初※、イタリアン唐辛子の生産に挑むシェフ

「シフトする人#2」に登場いただくのは、東京を拠点とする株式会社ピッカンテ取締役で、イタリアンシェフである永石守利武(ながいし すりむ)さん。

イタリアンレストラン「TRIPPERIA IL MACAONE」やケータリング、パーティーのプロデュース、ランチデリバリーを展開する同社が新たに手掛けたのは、国内初にして唯一のイタリアン唐辛子の生産。永石さんの取り組みは熊本県人吉市の畑を舞台に、さらなる広がりをみせている。

※株式会社ピッカンテ調べ

作るだけではない料理の世界

中学までを熊本県人吉市で過ごし、その後東京へ移り住むことになった永石さん。料理の道を選んだのは幼い頃から何かを「作る」ことに夢中になっていたから。仕事に就くなら「作る」ことがしたい、なかでも料理を選んだのはごく自然な流れだった。なぜなら「母曰く、僕が小学2~3年の頃には、仕事中の母に代わって夕食用のとんかつの下ごしらえをしていたらしいです」と、幼くも料理人としての片鱗をみせていた。

最初に勤めた純和食処で料理の基礎を修得し、5年あまり勤めた後に転職。当時、話題のテレビ番組「マネーの虎」に出演する実業家が代表の会社だった。飲食店を全国に展開するその会社で料理人として働く傍ら「何かおもしろいことをしたい」と自ら企画をプレゼンしたことから、持ち前の企画力を発揮していく。

「“おもしろいこと”が会社にとって有益なら会社が責任をもってくれるんです。自分の企画で数百人が動くってすごい気持ちよかったです!企画提案をする料理人なんて1人もいなかったし、当時の僕はただの平社員でしたから(笑)」。

豊かな発想力とその熱量から25歳にして新店舗の料理長として異例の抜擢。しかし、永石さんは程なくして会社を離れることにした。

洋食と出合い、イタリアへ留学

次に出合ったのが洋食だった。「洋食っておもしろい」と、多々あるジャンルからイタリア料理を選択。となれば「イタリアに行ってみるか!」と思い立ち、1年間の留学へ。

「語学を学びつつ料理も学べるカリキュラムだったものの、数字の3まで数えられなかったし、授業は全く分かりませんでした(笑)」。この経験を「イタリア料理を作るからには、現地を知って語れることが大事でした。だから修行っていうより、お客さんと自分に正直でいるための学びでしたね。地元のレストランでインターンとして働いたので、本物を学べました」と話す。

世代を超えた東大現役女子大生と会社を立ち上げる

イタリアから帰国後は、いくつかのイタリアンで働きながら独立について考えはじめた。そこで出会うのが、後に同社社長となる嘉藤彩乃さんだ。当時、彼女は世代も環境も違う、東京大学医学部の現役女子大生。

永石さんの信念としてあるのは、“自分より優秀な人が周りにいた方がいい”ということ。そこで独立するときのパートナーとして、嘉藤さんに話を持ち掛けた。「彼女も学生時代におもしろいことがしたいと、快諾してくれました。で、どっちが社長になるか?って話になって。“東大医学部の現役女子大生が社長”ってキャッチーだよねってことで」と、2017年に会社設立。

永石さん自身も固定概念に捉われず考え方は柔らかいが、やはり若い人の柔軟性や軽快さに刺激を受けることが多いそう。そして、ふたりで国内初のイタリアン唐辛子の生産に本格的に乗り出し、「人吉ぴっかんて」なる商品が誕生するのである。

 「人吉ぴっかんて」https://piccante.co.jp/piccante

イタリアン唐辛子を故郷・人吉で栽培

きっかけは、「いつも使うイタリアン唐辛子が輸入物で、日本で作れないのか?」と思ったこと。100種以上もある唐辛子のなかでもイタリア料理で多用されるカラブリアは、南アフリカなどで作られているものばかり。そこで、母から聞いた話を思い出す。故郷の熊本県人吉市で唐辛子栽培に取り組んだ実績があったのだ。

「人吉にいいリソース(資源)があるじゃん!そこに設備やノウハウはある、つまりイチから設備投資や技術指導などの必要がない。僕がやりたいことは目の前に広がっているじゃん!」とつながった。早速、母の知り合いの農家さんに頼んで唐辛子栽培をトライしてもらうことに。ここから、国産イタリアン唐辛子プロジェクトが一気に動き出す。

人吉を唐辛子で真っ赤に染めたい

数年の試行錯誤の末に現在、「でぃあぼりっちょ」と「ペペロンチーノぴっころ」の2品種の生産に成功。

品質を安定させるために欠かせないのは、苗作りだ。育苗センターに依頼して、強い苗を育ててから栽培。質の高い唐辛子を生産するために、それぞれが専門性を発揮できる分業体制をとることにもこだわった。収穫した唐辛子については「とにかく見た目が美しい!農家さんがきちんと手入れしてくれているからですね」と、日本らしい丁寧な手仕事からなる出来だと評する。

現在は食品総合卸に卸しており、商品化から2年で早くも売り切れ状態だ。

それでも、商品の売れ行きに反して、自ら人吉市へ畑の様子を見に行ったときに感じたのは興奮でも喜びでもなく、焦りだったという。

「帰省する度に故郷の疲弊感や、若者の流出が止まらない現状を目の当たりにしました。町が廃れていくことや、生産をお願いしている農家さんもしんどそうだなって。我々がもっと売らないと、農家さんが儲からない。産業として成り立たせて農家さんに、ひいては地元に還元しなければ…という想いが強くなりました」と振り返る。

そこで3期目となる今年は、さらに業績を上げるため作付面積を倍にするという施策に打って出た。

ここから5年後、10年後の展望は?

「継続可能な取組みを行う、それだけです。それって当たり前のようで、どこかに無理があると続かないですよね。この頃、よく耳にする“サスティナブル”を地でいくことかなと。あとは社会の一員として社会貢献の大切さを考えます。だから展望はといえば“一生続けられるようにする”こと。人吉を唐辛子で真っ赤に染めたい、そのための会社を人吉に作って雇用を生みたいってことかな」。

人吉を唐辛子で真っ赤に染める――。永石さんが描くそんな風景は近い将来、きっと叶うことだろう 。

  • 店名:TRIPPERIA IL MACAONE
  • 住所:東京都港区白金6-23-1
  • 営業時間:17:00~3:00
  • 定休日:土曜
  • ※営業時間・定休日は変更の場合あり
  • 問い合わせ:03-6875-0618
  • https://piccante.co.jp/ilmacaone/

シフトする人#3  alpaca to hana 有吉美由紀さんの記事へ