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Interview

ニッポンを知る旅・北陸能美〜九谷焼の可能性〜  

身につける九谷焼 Wear KUTANI

もっと身近に九谷焼を楽しんで欲しいという想いを形にしたアクセサリー・ブランド「Wear KUTANI」。能美市観光物産協会の呼びかけに賛同した女性クリエイターたちが丁寧に手作りするイヤリングやブローチ、ペンダントは全て唯一無二のもの。その一つひとつに華やかな色絵や金彩、繊細な赤絵細描、立体的な装飾が特徴の“いっちん”など、九谷焼のさまざまな技巧が凝らされている。

 「能美市の九谷焼は産業九谷と呼ばれ、高度な分業体制によって発展してきました。ですから『Wear KUTANI』のアクセサリー作りも同様に分業にし、クオリティの高い作品にしようということで、素地成形と絵付け、作品に合った天然石や金具などを取り付ける装飾仕上げの3つの工程に分けて制作され、絵付け作家は徐々に増えてきています。作品を通して九谷焼の魅力を体感していただき、それをきっかけに産地である能美市に足を運んでいただければ」と能美市観光物産協会の辰巳さん。

胸元には「Wear KUTANI」のブローチが飾られている。その赤絵細描の見事さ、愛らしさに目を奪われる。

描き手である福島礼子さんの工房を訪ねた。

同じ女性クリエーターが手がける雑貨シリーズ「with KUTANI」では、日々の暮らしの中に取り入れやすい、レターセットやマスクなどを展開。

40歳からのスタート

「父がすごく忙しそうだったので、ちょっとでも手助けができればと思って」

それが、福島さんが赤絵を始めたきっかけだという。

地元の一般企業で働いた後、夫の仕事の転勤でカルフォルニアへ。故郷を離れ外から眺めてみたことで、はじめて九谷焼の素晴らしさや赤絵細描の大家である父・福島武山さんの偉大さを実感したという。

帰国し、紆余曲折を経て、石川県立九谷焼技術研修所で学び、40歳で父に師事することになる。

「研修所に通いながら週に4回、父の工房に通うようになりましたが、工房には私より若いけどキャリアが長い方々がたくさんいて、ちょっとコンプレックスを感じるというか、みなさん上手に描けていて、すごいなぁと思っていました。今思えば、それが刺激になっていたのかもしれませんね。小紋柄をレイアウトする人が多いなら、私はちょっと違うふうに絵を描こうとか、自分らしさをどう出していくかを考えるようになっていきました。そういうことが苦しくもあり、また楽しくもあり。そんな毎日を送りながら、じわじわと、ものづくりへの想いが育っていったような気がします」

赤絵細描の魅力

赤絵細描は、九谷焼の代表的な作風の一つ。基本的にベンガラの赤一色で、線の太さや密度、濃淡の差によって表現する。金彩や他の色を部分的に加えることもあるが、それはあくまで赤絵の繊細さをより際立たせるために使われる。

「赤は九谷の色々な絵の具の中でも質がちょっと違っていて、最も細い線が長くムラなく描けるんです。同じ赤を使っていても細い線を何本も密に描くと濃く見えるし、まばらに描くと薄い色に見える。ちょっと水分を多くして淡く優しい色にすることもできるし、濃いベタ塗りで力強くも見せられる。ひとつの絵の具だけで驚くほど印象を変えることができるのがおもしろいんです」と福島さんはチャーミングな笑顔で話してくれた。

次の世代へのつなぎ手として

「赤絵細描の第一人者と称される父・福島武山を継ぐプレッシャーは?」

少し攻めた質問をぶつけてみた。

「そういうのはあまりないんです。父も名前を継げとは言わないですし。私は子供が三人いるので、私自身が跡を継ぐというより、次に誰かがやってくれたらいいなぁというくらいの思いはありますけれど。私を通して赤絵を繋いでくれたらいいと考えています。なんというか、架け橋みたいなものになれたらいいかなぁ」と、ふうわり。

新しい取り組みについて

「Wear KUTANI」での作品づくりと作家活動の違いを尋ねてみた。

「自分一人ではなく、他の作家さんたちと一緒にひとつの作品を仕上げていくというところが普段とは違いますね。私が描いたその先にも装飾をする過程があるので、次のステップを考えながら仕事をするようにしています。

例えば、これまでは全面に描いていたものに少し余白というか余地を残しておく。『ここにちょっと天然石が入ると、きれいかなぁ』とか意識して描くようにしています」

これからはどのように?

「これまで九谷焼の器を手にしてくださる方は比較的ご年配で余裕のある方に限られているようなイメージがありました。それをアクセサリーに落とし込んだことで裾野が広がったように感じています。若い女性の方がお友達と一緒に『わ〜、これ、かわいい』って喜んでくださるのはうれしいですし、そういうお声に、もっと応えていきたい。取り組みにも一層力が入りますね」

能美市観光物産協会の辰巳さんが言葉を重ねる。

「『Wear KUTANI』の取り組みが突破口になって、作家さんたちがもっと自由に活躍していただければと思っています。作家さんたちご自身でどんどん自由に取り組んでもらって、ゆくゆくは能美市に来れば、いろいろな九谷焼のアクセサリーを楽しめる、というふうになったら楽しいですよね。バラエティに富んだ技法がいっぱいあるのが九谷焼の魅力ですから」

福島さんも笑顔で声を弾ませる。

「九谷焼は柔軟なんです。新しいものもすぐに受け入れるし、巨匠クラスの先生やベテランの作家さんも知識や技術を惜しみなく教えてくれる。若い作家も自由な作品を伸び伸びと作ることができるんです」

福島さんは、このほかにも、爪に九谷の絵柄を施す「九谷ネイル」や、干支をあしらった焼酎の九谷焼限定ボトルの絵付けを手がけるなど、活躍の場は多岐にわたる。

能美市特産の「加賀丸いも」を使った焼酎「のみよし」の干支限定ボトル(受注生産)を手にする、宮本酒造店・後藤由梨社長。

気負わず、のびやかに福島さんは描く。白い生地の上に繊細な赤い線が走る。その手から次はどんな作品が生み出されるのか楽しみでならない。

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