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【アート探訪#1】 塩田千春展「巡る記憶」:大分県別府市

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開催地は地熱漲る別府

オトナの探究心を満たすべくヒト・コト・モノを実際に訪れて紹介するガルニアの探訪紀。初回は国際的に活躍するアーティスト 塩田千春氏の展覧会「巡る記憶」-大分県別府市中心市街地(2022年10月16日まで開催)。

まずは、同氏の展覧会が大分県別府市にて開催と聞き、期待が膨らまずにはいられなかった。なぜなら、筆者は十数年前に《不在との対話》を観たときから同氏の作品に魅了されていたからだ。さらに、日本を代表する温泉地での開催がその期待を後押しした。大地・地熱・エネルギー・街・人という別府のポテンシャルを同氏がどう表現するのか。

今回の展覧会は日・中・韓の国際交流を目的とした事業「東アジア文化都市2022大分県のコア事業の1つ。別府での開催理由を「塩田さんのコンセプトに『不在という存在』という言葉があります。別府という場所が持つオーラや人の気配がそれを感じさせ、作品に繋がっていくんじゃないかなと思いお願いしました。」とプロデューサー山出淳也氏が語る。

とにかく、できるだけ作品から多くのものを受け止めたく、頭を空っぽにして大分県別府市へ向かった。

卸問屋に紡がれた白の記憶

一つ目の会場はJR別府駅より徒歩3分の「BEP.Lab」。ノスタルジック漂う街のこの建物はかつて小麦粉や砂糖を扱う「草本商店」という卸問屋だったという。

草本商店と書かれた建物の2・3階が展示会場

昔ながらの狭く急な階段を上がると、ここが狭い空間であることを忘れるほど、和室の天井に至るまで、ダイナミックにインスタレーションがはじまる《巡る記憶 – 草本商店》。その空間は2階から3階へ続き、これがホワイトキューブでない醍醐味だろう。

塩田千春《巡る記憶 – 草本商店》(2022)展示風景
塩田千春《巡る記憶 – 草本商店》(2022)展示風景

この作品の「循環」というテーマは、生命の大きなサイクルを想像させる。ここで編み込まれている糸は白く、雲や湯けむりを連想させ、水が張られた床の水面に優しく落ちる水滴は雨のようだ。それが視覚だけでなく、聴覚にもひしひしと伝わってくる。

塩田千春《巡る記憶 – 草本商店》(2022)展示風景

塩田氏は「別府だからできる作品を探していました。この場所には記憶があると感じたんです。誰もいないんだけど誰かが使っていた記憶がある、誰かが生活していた思い出がある。別府だからこそ、家の中全体を作品にしました。」とこの建物について語った。

塩田千春《My Wheel of Hope》 2020 展示風景

3階にはドローイングと版画が展示してある。版画の3点はコロナ禍に300枚以上(300枚以降は数えていないそう)描き溜めた一部である。水は青、渦は宇宙、そして宇宙と人との繋がり。

建物を入口とは別ルートで出口に向かうのだが、この最後の階段でも感覚を研ぎ澄ませておいてほしい。この建物を出るまでが一つの作品だ。 

甦る賑わいは赤の記憶

もう一つは、さらに徒歩数分の「新中華園ビル1階」。2016年ごろまで40年以上営業していた店内の1階全体が作品となっている《巡る記憶 – 中華園》。

中華皿や円卓などの中華料理店特有のアイテムが赤い糸により宙を浮き、または据えられている。

塩田千春《巡る記憶 – 中華園》(2022)展示風景

どれも実際にこの店で使われていたものだ。このアイテムに囲まれた料理人や多くの客の賑わいが甦る。

塩田千春《巡る記憶 – 中華園》(2022)展示風景

それは細部にまでいきわたり、その一つ一つにも注目してもらいたい。岡持ちやレジに至るまで、当時のものがそのまま存在している。

塩田千春《巡る記憶 – 中華園》(2022)展示風景

同氏によると、赤のイメージは人と人との繋がり、または血液の赤だという。

「この建物のオーナーさんと話をする機会がありました。父の時代に繁盛していた中華料理店が存続できなくなり、全てのものが放置された状態だったと。オーナーが買い取ったそうですが、父への思いがあるものの、店を再開することはできなかったそうです。今回、違う形で生まれ変わったことを喜んでくれました。」と制作中のエピソードを教えてくれた。

塩田千春氏

プロフィール:1972年、大阪府生まれ。ベルリン在住。生と死という人間の根源的な問題に向き合い、「生きることとは何か」「存在とは何か」を探求しつつ、その場所やものに宿る記憶といった不在の中の存在を糸で紡ぐ大規模なインスタレーションを中心に、立体、写真、映像など多様な手法を用いた作品を制作。2008年、芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2015年には、第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館代表に選ばれる。2019年、森美術館にて過去最大規模の個展『魂がふるえる』を開催。また、エスポー現代美術館 (2021年)、ニュージーランド国立博物館テ・パパ・ トンガレワ (2020年)、南オーストラリア美術館 (2018年)、ヨークシャー彫刻公園 (2018年)、高知県立美術館 (2013年)、国立国際美術館 (2008年) を含む世界各地の個展のほか、国際展などのグループ展にも多数参加。 

別府の街並みに溶け込んだ今回の作品は、現代美術だからと難しく捉えず、自由に解釈していいというメッセージにも受け取れる。 ぜひ 一度、訪れてみてほしい。

本展をより深く体験

作品展示会場から徒歩数分の長屋を改装したサテライト会場「platform05」では、塩田千春氏の「第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」の制作風景を収めた映像をはじめ、過去の図録が閲覧が可能だ。また、「SELECT BEPPU」では本展のオリジナルグッズが販売されている。塩田氏のスケッチやドローイングをもとにデザインされたもの。本展のブックレットも会期の後半に発行予定なので、これは入手したい。

塩田千春展『巡る記憶』開催概要
会期:2022年8月5日(金)〜10月16日(日) 
休み:火曜日、水曜日
時間:11:00〜18:00 (最終入場 17:30)
会場:大分県別府市中心市街地
料金:無料 
Web:www.beppuproject.com/shiotachiharu